前日のエール2パイントのおかげで、横になったとたんに寝てしまったのだが、目が覚めたらちょうど12時で、その後は、全く眠れなくなってしまった。時差ボケなのだ。朝になっても頭がボンヤリしている。2日めは、実は大変なコースなのだ。前の晩に夕食を取りながら、天気が良さそうだから、Red Pikeに登る健脚コースを行こうと決心していたのだ。ガイドブックにコースは書いてあるが、細かい地図はない。Helvelynへ行く前のちょっとした冒険だ。日本では睡眠不足でも山を歩くトレーニングはしていたので、歩き出せばなんとかなるだろうと思っていた。
そんな中、朝早くパカッパカッと音がするので何かと思って外を見たら、馬に乗って散歩している人がいる。なんと優雅な。確かにあちこちでbridle wayのタテ看板を見るけど、馬糞が落ちていて歩く時には困ってしまう。イギリスは羊糞だけでなく牛糞や馬糞ともとても身近な国だ。
朝食をとって出発、8時35分。
後でわかった事だが、Red Pikeへ向かう人達は、Enerdale_waterの湖畔を歩かずに直接山に向かう人たちが多いらしい。そんな事は知らなかったので、C2CのガイドブックにしたがってEnerdale_waterの南湖畔を歩く。アップダウンもなく歩きやすいけど飽きるほど長い湖畔の道だ。ようやく湖に別れを告げて前方を見ると、Red Pikeガ見えて来る。ガイドブックにはRed Pikeに登るときは、まず十分な高度を得るまで小川に沿って直登しなさい。西側に早めにトラバースすると危険地帯に入りこむと書いてある。なんとなく、そんな地形だなぁと言うのが見えて来る。ガイドブックは偉い。
Ennerdale ユースホステルに着いて、さあ、いよいよ登りだ。
Red Pikeを登り始めた時には、もう11時近くて、こんなペースで大丈夫なんだろうかという気もしたが、黙々と登り始める。天気が良くて本当に良かった。予想通り道は有って無いようなものだ。登り始めて15分くらいすると、前方から若いヤンキー兄ちゃん2人が降りてくる。リュックも背負ってないし一人は上半身裸だし、きっと昨晩のYHの客が山に登って降りて来たのだろう。道を教えてもらうが全く英語が聞き取れない。指差して教えてくれた方角が妥当なので、そうだよね、あっちの方向だよね、という感覚で小川に沿って登って行く。登るに従ってどんどん頂上が高く見えて来るような感じである。こんなところを登っていていいんだろうかという気にもなってくる。
ついに小川が無くなって、傾斜がなだらかになって来ると、いくつか道が見えてきた。上部が丸い山なので、この辺は道があってもなくても同じようなものだ。とはいえ、道が見えて来てうれしかった。そしてさらに頂上に近づいて行くと、オッ、人がいるではないか。多くはないけど、パラパラと人影が見える。これでかなり安心したけれど、彼らは一体どこから来てるのだろうと不思議だった。
Red Pikeの上の方は、まるで北アルプスのような岩の山だった。なんとなく北アルプスを歩いているような気になってしまう。Red Pikeへは、尾根を連ねた道が整備されているんだな、と上に上って初めて気付いた。でも、ここに登って来ている人達はPatterdale方面ではなくLoweswater方面から来ているようだ。確かにこっちの道の方が景色も良い。
Red Pikeの頂上は風が強い。いくつか石が風除けに積んであるので、その中の一つを占有して簡単な昼食にする。ちょうど12時。ここが標高755mの山だというのが信じられないくらい、高山に居る気分がする。歩いた時間を考えればそんな高度だけど、この辺では高度の感覚が日本と違う。昨日のDent Hillは300mの丘だったが、700m近くなると、こんな景色になるんだと理解する。
頂上にも、チラホラと人が増えてきたので、占有していた石室を明渡して、歩き始める。
それからの尾根道歩きは、まるで北アルプスだ。約1時間半、時々、人ともすれ違う、適度な人口密度でちょうど良い。そしてHigh Craigの崖を駆け下りる。Red Pikeを無事踏破したという安心感と睡眠不足から、この辺から体に疲れが出てくる。早く宿について横になりたい気持ちなんだけど、この尾根道を歩いている途中に、どこが次の宿Rothwaiteなのかが良くわからない。西の方には山しか見えない。ひょっとすると、あの山を越えるのかもなぁと思うが、こんなに下っていいんだろうか、という不安。そして、目の前に巨大な岩の塊が見えてくる。地図の上には、あまり大きく出ていないが、あれを越えないといけないようだ。なんとなく絶望的な気持ちのまま、High Craigを下って鞍部に着くと、そこには、やたら人が一杯いる。そこは標高500mくらいはあるところだけど、若い人から一般人まで、人が多い。山歩きの装備はしているが、馴染んでいない人達も多い。これは何なんだ、と近くの人に聞くと、これがHay stackだ。ガイドブックを良く見ると、コース上にHay stack(594m)とあるのを見つけた。えっ、この疲れた体でここを登るのかと思ったが、こんな一般人達には負けていられない、と思って歩き出す。
良くわからない状況だが多くの人に紛れて岩のかたまりを登り始める。あちこちに疲れた人達が岩にへばりついている。イギリスでは登山は人気スポーツなのかと勘違いしそうな光景だ。途中で降りてる人に道を聞くと、この苦しい登りは10分くらいで後は楽だよと教えてくれる。きっと、よほど疲れた顔をしていたのだろう。やっぱり詳細な地図は必要だようなと思いながら、最初の壁を乗り越えれば、後は楽だった。ガイドブックでは、この先の道がとてもわかりにくい、と書いてあるのに、この人の多さはなんなんだろうと思ったが、このHay Stacksの上には、池(Tarnと言う)がちらほらある。ちょっとした空中庭園のような感じだ。この景色のために人気コースになっているのだろう。
実は、High Craigあたりから、何度も出会った2人組みのオジサン達がいる。ペースが似ているもんだから、小休止する度に、先へ行ったり抜かれたりという人達なんだが、何度目かに合った時に彼らの地図を見せてもらった。25000分の1の地図はさずがだ。彼らはGatesgarthのYHに泊まるんだとのこと、C2Cとは微妙にコースが違う。ともかくも自分の位置を再認識できたので、今一度、池のほうに戻る。休憩している人に、「この池は、Black Berry Tarnだよね?」と聞くと、「いいえ、これは、Innominate Tarnですよ、ほらAlfred Wainwrightの好きだったTarnよ。」ああ、そうか。自分の勘違いも気付いたし、何故、このコースに人が多いのかも理解できた。Lake districtでは、Wainrightは日本の深田久弥のようなものかもしれない。確かにInnominate Tarnの回りで休憩している人は、ここに癒しを求めに来ているような人も多い。じゃれる若い恋人達までいる。ここは人気スポットなんだ。ようやく位置を再確認できたのでC2CのコースにもどるべくLoft Beckの方面に向かう。
Innominate Tarnの反対外に回り込む感じで、東の方向に進む。とたんに人が居なくなる。ガイドブックには道がわからなくなったら柵に沿って進めとある。そうして進むうちになだらかな斜面が見えて来た。そして、その斜面を登っている人を発見。ああ、あれがC2Cのコースだ。そう思って下の方を見れば、あの辺の登り道がLoft Beckなんだろうな、という感じで、ようやく本日のコースの全体像が理解できた。柵を乗り越えてようやくC2Cの本流に合流できた感じだけど、殆ど人がいない、だけど道は上のほうへぼんやりと続いているので登って行くと大きな道に合流、先はまだまだだけど、なんとなくホッと安心することが出来た。なんだかしらないが、歩いている人もチラホラ見える。これなら明るい内に着けそうだと一休みする事が出来た。
C2Cのコースは、この辺(巨大な採石場を正面に見るあたり)では、道は等高線上に続いている。ただ、歩いている人は皆元気で、とてもC2Cをはるばる歩いているようには見えないし、南方の高い尾根から降りてくる人も居る。そしてこの人達は、殆どがSeatoller Fellの駐車場に車を停めて来ている人達だった。Lake districtには、one day hikeに向いた山がたくさん有。C2Cが王様のように考えていたが地元の人達はもっといろんなバリエーションを手軽に楽しんでいるんだ。
Honister_slate_mineへ向かう下り道は、結構人が歩いている、皆、歩くのが速い。犬を連れた女性にも、どんどん引き離されてしまう。おかげで、かなり時間をかせぐ事ができた。
Honisterのユースホステルに着いたのは丁度4時だった。一休みする場所も余裕もなく、そのまま歩き続ける。車道を数百m歩いて、また山道を歩く。この辺まで来ると、すっかり山を降りて来たという感じがする。ガイドブックを見ると、Seatollerの町まで、大きく蛇行して下り道が続いているのだが、どう見ても遠回りだ。確かSeatollerには評判の良いレストランがあったはずだけど、この際、体力優先で近道を選択し、山の斜面の獣道のような道を歩いて行く。そしてなんとか無事にB&Bに到着。5時10分。まだ、十分屋外は熱いので、B&Bのマダムも、短パンにTシャツで、庭でひなたぼっこしている。ああ、長い一日だった。Ennerdale BridgeからRed PikeやHay Stacksを通って来たよと言ったら、とても驚いていた。やっぱり厳しいコースなんだろう。この好天に感謝。
夕食はRiver side PUB。歩いて5分くらいのホテルのPUB。このホテルの隣の空き地には、どこかのRambler's clubの一行の貸し切りバスが止まっていた。中高年の集団であることは日本と全く同じだ。僕がPUBでギネスを注文する横で、急いでビールを飲み干してバスに急ぐ光景も日本とそっくりだ。
このPUBは何となく、日本のファミレスのような感じだけど、今日の山道はきつかったなぁなどと地図を見ながら飲むビールは格別の味だった。ちなみにこのPUBで働いているのは南ア出身のインド系の人達だった。この日は久しぶりにバスタブに浸かった後、爆睡。